小池英樹のAIマーケティング経営ノート
AIを入れても、なぜ仕事が軽くならないのか
「できた」の

AIに、教材のスライドを仕上げ直してもらいました。できあがったのは、150ページです。技術的なチェックは、合格でした。
でも私は、その改修版を、本番では使わないと決めました。

AIの作業は終わっても、私の仕事は終わっていませんでした。
AIに頼めば、すぐに案が出てきます。修正を頼めば、それもすぐに返ってきます。それなのに、ずっと確認と手直しを続けている。そのような状態になっていないでしょうか。
今回は、自社の教材づくりで起きたことからお話しします。AIで仕事を速くするだけでなく、自分が同じ仕事を抱え続けないために、何を変えるのか。それを考えます。
中身だけを足したかった。でも、デザインが毎回つくり直された
まず、実物をご覧ください。最初につくった教材です。見た目には、満足していました。足りなかったのは、中身です。

この教材では、AIと対話しながら、自分の経験を商品の材料に変えていく方法を教えています。それなのに、実際の受講者の事例も、対話の例も入っていませんでした。確認の項目は通っていても、読み返すと、ネットでよく見かける説明に近いものでした。
そこで、実際の受講者の事例と、AIとのやりとりの例を盛り込むことにしました。

変えたいのは中身だけです。デザインは、そのまま使うつもりでした。前に決めたデザインの素材も渡し、新しいデザインを勝手につくらない、という指示も出していました。
ところが、仕上がった教材には、こんなページがありました。

同じ比較表が、左右に二つあります。左は細く、文字が何度も折り返しています。右は、大きな枠の中に、表が小さく収まった形です。
直してもらうと、こうなりました。

二重の表は消えました。ただ、表は小さく、余白ばかりが目立ちます。
私が望んだのは、前のデザインをそのまま使うことです。それなのに、AIは直すたびに、デザインそのものをつくり直していました。そして、そのたびに、最初の形から離れていきました。
技術的な点検は合格でも、教材としては使えません。私は、全体をまたつくり直すのを止め、代表的なページから見直す方向に切り替えました。
指示を出していなかったわけではありません。素材も、守ってほしい決まりも、渡していました。それでも、出来上がりは、求めたものとは違いました。
「伝えたこと」と「できていること」は、別でした。

「できた」の先にある、仕事の目的
では、チェックが足りなかったから、項目を増やせばよいのでしょうか。
今回、文字のはみ出しや、指定の文章が入っているかといった点検は、行われていました。画像を開いて確認した記録もあります。それでも、私の求める品質には届きませんでした。
文字が枠に収まっていることと、読む人にとってわかりやすいことは、同じではありません。

私が欲しかったのは、150ページのファイルではありません。受講者が理解して、自分の商品づくりを進められる教材です。
この教材を学ぶ意味があるか。受講者が、次に何をするか、わかるか。私が確かめたかったのは、そこでした。
作業を渡したつもりが、説明し直す、選び直す、手直しを頼むという、別の仕事になって、自分へ戻ってきました。
つくる時間だけでなく、使える状態になるまでの負担まで含めて、仕事が軽くなったかを考える必要があります。
いきなり全部ではなく、まず使える一つを
では、次に同じ仕事を進めるなら、どうするか。
デザインを変えないという指示は、すでに出していました。次に変えるのは、全体へ広げるまでの進め方です。
最初から全ページをつくらせるのではなく、まず代表的な数ページで、中身を足しても、決めたデザインが守られるかを確かめます。比較を見せるページ。手順を伝えるページ。受講者が記入するワークのページ。選ぶのは、役割の違うページです。
たとえば、次のように頼みます。
「このページは、二つの違いを理解してもらうためのものです。デザインは変えず、事例の中身だけを入れて、まず、この一ページを仕上げてください。残りのページには、まだ進まないでください」
できたら、実物で確かめます。二つを見比べやすいか。文字は読めるか。デザインが守られているか。
違っていれば、直す場所と理由を、具体的に伝えます。よい形になったら、その完成例と、なぜよいと判断したかを、次のページにも渡します。
最初の一つを確かめるのは、AIに任せる量を減らすためではありません。同じずれを、たくさんのページへ広げないためです。そして、広げた先でも、同じ条件が守られたかを確かめます。
この教材づくりを通して、次に目指す形がはっきりしました。「たくさんつくって、後から全部直す」ではありません。「使える形を確かめてから、任せる範囲を広げる」です。

試行錯誤を、毎回やり直さない
もう一つ、残しておきたいのは、そのときの判断です。
この連載の動画も、編集の多くをAIに任せています。第1回では、章の見出しを全画面で出したり、帯に変えたり、また全画面に戻したりしました。表示する長さも変えています。
試すこと自体は、必要でした。実際に見なければ、決められないこともあります。問題は、試して決めたことが次の作業に引き継がれず、また同じところから迷い直していたことでした。
試行錯誤を、なくしたいのではありません。一度した試行錯誤を、次に生かしたいと考えています。
そのために、採用した形だけでなく、採用した理由や、変えてはいけないところも残します。途中の案と、正式に決めたものも分けます。正式に決めた内容や基準は、「正本」にまとめています。
正本とは、その仕事で「これが正しい」と決めたことを書いておく、一つの置き場所です。お客様は誰か。何を約束しているか。どんな言葉を使わないか。デザインなら、色や文字、ページの型。そして、変えてはいけないところと、その理由です。
正しい情報を一か所にまとめておくという考え方は、ソフトウェアの開発などで、以前から使われてきました。それを「正本」と呼んでいます。正本は、マークダウンという、見出しや箇条書きを記号で書く、シンプルな文章のファイルで残しています。AIにも、人にも読みやすい形式です。
AIとの会話は、作業場です。話した内容は、流れていきます。正本は、会社の記憶です。決めたことが、残ります。
AIに仕事を任せるときは、その仕事の正本を先に参照するよう指示します。毎回一から説明し直さず、前に決めたことの続きから始めるためです。人も、同じものを見て確かめます。

大事なのは、立派な管理資料をつくることではありません。次に頼むとき、「前回はどう決めたか」と会話をし直さずに、その続きから始められることです。
もちろん、お客様の反応を見て、決めたことを変えるのは必要です。変えないための記録ではなく、何を根拠に変えるかがわかるようにするための記録です。
空いた力を、お客様と事業に使う
AIを入れて、仕事が軽くなったか。私が見たいのは、何本出力できたかだけではありません。同じ説明や、同じ手直しが減ったか。そして、その分、商品や販売の改善に力を使えたかです。
確認と修正で一日が終われば、お客様に届ける仕事は、後回しになります。AIを使うことが、事業を進めることの代わりになってはいけないと思います。
いまAIに任せている仕事を、一つ思い浮かべてみてください。毎回、自分が直しているのは、どこでしょうか。
次に頼むときは、そこを一つだけ、完成例や具体的な条件にして渡してみてください。「もっとよく」ではなく、「ここはこの形を残して、ここを直す」と伝えます。そして、同じ手直しが減ったかを確かめます。まずは、その一回からです。
AIに任せることは、自分が毎回すべてを判断し直すことではありません。私は、一度考えたことを次にも使い、空いた力をお客様や事業のために使えるような任せ方を、育てていきたいと考えています。
AIに任せる。事業の進路は、自分で決める。
小池英樹 株式会社AutoPilotAcademy CEO
