小池英樹のAIマーケティング経営ノート
AI同士が相談する日、あなたの会社は何を頼まれるのか
未来の

私の代わりに動く「小池AI」が、お客様の側の「佐藤さんAI」と相談しています。佐藤さんAIが、課題と条件を伝える。小池AIが、提案と日程の候補を返す。
これは、先を考えるための仮の例です。
では、そのとき人は、何をしているのでしょうか。
この記事のテーマは、AI 同士で仕事が進むとき、あなたの会社は何を頼まれるのか、です。
速く作れることと、高く売れることは、同じではない
この場面の前に、まず今のことから考えます。AI で、仕事が速くなる。たとえば、10時間かかっていた仕事が、2時間になる。これは大きな変化です。でも、競合も2時間でできるようになったら、お客様はいくら払うでしょうか。
速く作れることと、高く売れることは、同じではありません。

ビル・ゲイツは、AI によって、多くの商品やサービスを作るのに人の労働が要らなくなる見通しを語っています。一方、マーク・ザッカーバーグは、一人でできることが増え、新しい事業や仕事が生まれる未来を描いています。
減るのか、増えるのか。結局、どちらなのでしょうか。
この記事では、この二人に、イーロン・マスク、サム・アルトマン、孫正義を加えた五人の発言から、何が見えていて、何がまだ分からないのかを整理します。
私が考えたいのは、未来を当てることではありません。その中で、自分の会社が何の対価を受け取るのか。つまり、お客様が、何にお金を払ってくれるのか、ということです。
仕事が減ることも、増えることも、同時に起こり得る
最初にお断りしておきます。五人の話は、いずれも私の要約で、別々の場での発言です。また、ここからの身近な例は、本人の発言ではなく、私が理解のために置いた仮の例です。
まず、ゲイツです。ゲイツは、開発を大きく遅らせたり止めたりしなければ、およそ20年のうちに、多くの商品やサービスを作るのに、人の労働が要らなくなると見ています。AI を人が制御できるという前提つきです。そして、そこへ移る途中で、仕事や所得を失う人が出ることを心配しています。
たとえば、問い合わせの対応を AI に任せて、同じ品質で回せる会社があるとします。会社の費用は減ります。でも、担当していた人の次の仕事と収入は、別に考えなければなりません。
次に、ザッカーバーグです。一人でできることが増えれば、資金や大きなチームがなくて諦めていたアイデアを、個人が形にできる。そして、自動化が人の力の伸びを必ず上回るわけではなく、むしろ人の力の伸びが追いつく、と見ています。
たとえば、料理教室の先生が、AI と組んで、海外向けの動画教材を一人で作る。それまで届けられなかった相手に、新しい商品を売れるかもしれません。
二人の違いは、分かりやすいと思います。今ある仕事を AI が引き受ける速さを重く見るのか。人が新しい仕事を生む力を重く見るのか。どちらも、同時に起こり得ます。

マスクは、作る量を増やす話が中心です。AI とロボットが広く行き渡れば、人手に縛られずに、たくさんのものやサービスを提供できる。たとえば、夜の間もロボットが工場を動かし、人手が足りずに断っていた注文にも応えられる、というイメージです。
アルトマンが強調しているのは、AI の力を、少数の会社や人に集中させてはいけない、という点です。経済の移り変わりを支える政策や、社会で一緒に決める仕組みが要る、と書いています。たとえば、強い AI を一部の大企業だけが使える場合と、小さな会社も使える場合では、挑戦できる人の数が変わります。
孫正義は、AI を現実の事業として動かすための土台づくりを進めています。取り組んでいるのは、AI モデル、半導体、AI インフラ、ロボットの四つです。たとえば、荷物を運ぶロボットも、賢い AI だけでは動きません。計算する半導体、設備や電力、実際に荷物を持つ機械まで要ります。
方向は重なっていても、具体的な未来はまだ見えない
並べてみると、五人とも、人の知能や人手が足りずに止まっていた仕事を、大きく広げようとしています。その方向は、重なっています。

でも、その先に、どんな職業が何人分生まれ、何がいくらで売れ、所得がどう分かれるのか。そこまで具体的な未来が見えているかというと、そうは言えないと思います。
ゲイツの20年も、条件つきの見通しです。ほかの四人の話も、予測や、実現を目指す構想であって、未来を保証するものではありません。
実際の動きにも目を向けてみます。マイクロソフトは2026年7月、約4,800人分の職務削減を発表し、10月には一部の国・組織で任意退職制度を導入しました。ただし、7月に削減する職務は AI に置き換えられるものではないと説明しています。人員削減があることと、それが AI によるものかは、分けて考える必要があります。

分からない部分は、三つに分けると考えやすくなる
ただ、分からないから何も考えられない、ということではありません。
私は、分からない部分を、三つに分けると考えやすくなると思っています。どれだけ作れるか。いくらで売れるか。そして、そのお金を、誰が受け取るか。

AI で一人の生産力が上がっても、値段が下がるかもしれません。市場が広がって、売上が増えるかもしれません。利益が、働く人より、設備や販売の場を持つ側に集まるかもしれません。
三つ目の、誰が受け取るか。ここは、能力が広がっても、自動では決まりません。仮の例ですが、社員が AI で多くの仕事をこなして、会社の利益が増えたとします。それでも給与が同じなら、増えた利益は給与には入りません。能力が上がることと、所得がどう分かれるかは、別の話です。

能力が広がることと、差が広がることは、両方同時に起こり得ます。逆に、差が必ず広がると決まっているわけでもありません。技術の性能だけでは、この三つの答えは出ません。
同じ AI でも、お客様がお金を払う理由は違う
自分の仕事に近づけて考えてみます。架空の、小さな制作会社の例です。
A社は、AI を使って、お店のホームページを短い時間で作れるようになりました。これまで10時間かかっていた仕事が、2時間になった。品質が同じなら、会社にとっても、お客様にとっても、よい変化です。
ところが、ほかの制作会社も同じ AI を使い、お店自身も、ある程度は作れるようになりました。お客様が比べるのは、何時間かかったかではありません。何ができて、いくらなのかです。作る速さだけでは、選ばれる理由が薄くなるかもしれません。
B社は、ページを作る前に、お店の予約がどこで止まっているかを調べます。そもそも見られていないのか。見られているのに、中身が伝わらないのか。予約の手順が難しいのか。
それを確かめて、必要なところを直し、直したあとも予約につながったかを見ます。AI で作る速さは、この仕事の中に組み込みます。
A社とB社が使う AI は、同じです。でも、お客様がお金を払う理由は違います。A社には、ページを作ってもらうため。B社には、予約までの問題を見つけて、改善を進めてもらうためです。

もちろん、B社なら必ず儲かる、という話ではありません。調べたり直したりする手間が膨らめば、利益は出ません。予約が増えることも、無条件には約束できません。何を引き受け、どう確かめ、いくらで続けられるかまで、決めておく必要があります。

私がここで言いたいのは、AI で何時間減らせたかの先に、お客様は結局、何にお金を払っているのか、という問いがある、ということです。そして、そのお客様と直接つながっているのが自社かどうかで、同じ価値を生んでも、自社に残る利益は変わります。
仕事の先行きは、AI に何ができるかだけでは決まらない
ここでは、考えるために極端な仮の例を置きます。「医師は残る」「弁護士は消える」といった、職業の名前だけで区切る見方は、難しいと思います。
医師や弁護士という職業が、残るとも、なくなるとも、予測しているわけではありません。
たとえば、情報を調べて、判断の材料を整える力は、AI で大きく広がります。それと、患者さんや依頼人が何を大切にしているかを聞き、説明し、責任を持って対応することは、同じ値段が付く仕事とは限りません。
つまり、仕事の先行きは、AI に何ができるかだけでは決まりません。人が何を任せ、何にお金や時間を使いたいか、によっても変わります。未来を正確に描き切れない理由の一つは、人の側も変わっていくからだと思います。

AI が働くほど、事業の決め事が大事になる
ここで、冒頭の場面に戻ります。小池AIと佐藤さんAIが相談して、仕様や日程の候補まで調整する。今、商談から納品まで、安全に丸ごと任せられると言っているわけではありません。
ただ、そこまで進んだとして、お客様は、小池AIの作業時間にお金を払うのでしょうか。それとも、小池の側に任せることで、解決できることがあるから払うのでしょうか。
自分の経験や判断を AI と組み合わせて、提供できる範囲を広げる。そのとき、何を解決する会社なのかがあいまいなままでは、作業が増えても、事業がよくなるとは限らないと思います。
何を約束するのか。どこまで任せて、どこで人が確かめるのか。結果が思っていたのと違ったとき、どう対応するのか。AI が働くほど、こうした事業の決め事が大事になるはずです。

たとえば、小池AIが短い納期の案を出せても、私が引き受けられるとは限りません。案を作る力と、お客様に約束する権限は、分けておく必要があります。

自社の主力の商品を一つ選んで、なぜ自社に頼むのかを問う
今回、五人の話を見て、私には、未来の完成図が見えた、とは言えません。誰か一人の予測を選べば、経営の正解が手に入るとも思いません。
それでも、これまで人の手間や知識が足りないことで値段が付いていた仕事が、AI によって変わる。その可能性には、今から向き合えます。
まず、自社の主力の商品を一つ選んで、こう問うてみたいと思います。もし今の作業時間が5分の1になって、競合も同じことができるようになったら、お客様は、それでもなぜ自社に頼むのか。

答えが「安いから」「速いから」だけなら、その強みがどのくらい続くかを確かめたい。「お客様の事情が分かる」「改善まで進められる」「安心して任せられる」という答えなら、それが本当に選ばれる理由なのかを、お客様の声と実績で確かめたいと思います。

そして、その価値を提供し続けて、自社にも利益が残るのかを見る。AI を試すなら、この問いを確かめるために使いたいと思います。
未来が分からないからこそ、何でも AI に任せるのでも、今の仕事を守るだけでもなく、自分の会社が何の対価を受け取っているのかを考える。
AI と一緒にできることを広げながら、お客様にとっての自社の意味も、作り直していく。今回の五人の話から、私が経営者として持ち帰りたいのは、そこです。
作業が速くなり、AI 同士が相談するようになった先で、お客様から何を頼まれる会社になるでしょうか。
小池英樹 株式会社AutoPilotAcademy CEO
出典
- ビル・ゲイツ:ポッドキャスト「Decoder」(The Verge、2026年10月22日)
- マーク・ザッカーバーグ:「The Future is for Everyone」(Meta、2026年8月10日)
- イーロン・マスク:ダボス会議での対話(2026年1月22日。世界経済フォーラムの記事「Elon Musk at Davos 2026」、記事の公開は2026年1月24日。対話を紹介する記事で、本人の発言の全文ではありません)
- サム・アルトマン:本人のブログ(2026年4月の投稿)
- 孫正義:トップメッセージ(ソフトバンクグループレポート 2026、2026年6月)
- マイクロソフトの公式ブログ:2026年7月6日「The latest in our company transformation」(約4,800人分の職務削減。削減する職務はAIに置き換えられるものではない、と説明しています)
- マイクロソフトの公式ブログ:2026年10月26日「Introducing a Voluntary Exit Offer」(カナダ・インド・英国・米国の参加組織の任意退職制度)
