小池英樹のAIマーケティング経営ノート
AIと考えて買う顧客に、どう選ばれるか|AI共考型の購買モデル
AI に

M5 Max の MacBook Pro を買うとき、14インチと16インチのどちらにするか、ずいぶん迷いました。
比べる動画を見て、ChatGPT にも相談しました。迷った末に、いったんは16インチに傾きました。それでも、最後に選んだのは14インチでした。選ぶ理由が、途中で変わりました。
お客様にも、同じことが起きているとしたら。AI と相談しながら選ぶお客様のために、売る側は、何を用意すべきでしょうか。
この記事では、仕事ではなく、私の買い物の話から始めます。ただ、行き着く先は、皆さんの商品やサービスの売り方です。
最後に選択を動かしたのは、手で確かめた重さ
新しく MacBook Pro を買うときのことです。動画の編集もするので、14インチと16インチの実機を比べる動画も見て、動画の編集では16インチに余裕がある、という説明に納得していました。
長い時間、重い作業を続けると、14インチは熱で性能が下がる場合がある、という情報も気になっていました。用途を伝えて相談した ChatGPT も、16インチを強く後押ししていました。
普段は、机に置いて使います。ただ、海外にも持っていって、仕事もしたい。店頭で16インチを手に持ってみると、本当に重く感じました。
そこで、もう一度 ChatGPT に戻り、14インチと16インチで、動画の書き出しにどれくらい差が出るのかを、聞き直しました。14インチと16インチの間を、何度か行き来しました。最後は、自分の使い方なら14インチで足りる、と判断して、14インチを選びました。今も、十分に使えています。後悔はありません。
振り返ると、持ち運びは、最初から相談に出ていた条件です。条件が新しく生まれたのではなく、条件の優先順位が変わったのです。
そして、最後に選択を動かしたのは、AI の説明ではなく、自分の手で確かめた重さでした。
AI に紹介されることは、入口
先に、この記事の結論をお伝えします。
お客様は、AI と相談して候補を絞ったあとも、自分に合うかを、確かめ直しています。
AI に紹介されることは、入口です。でも、私の Mac の購入では、決め手になったのは、その先で確かめられたかどうかでした。
ですから、売る側が用意するのは、AI に紹介される情報だけでは足りません。お客様が、自分に合うかを確かめ直せる材料です。
なぜそう言えるのか。先に出ている見方と、私の整理の順でお伝えします。
「買う前に、何で決めるのか」には、前から名前がある
買う前に、何で決めるのか。この問いには、前から名前があります。
2005年に P&G は、お店の棚の前で、買うかどうかを決める瞬間を、FMOT(エフモット)と呼びました。First Moment of Truth。お客様にとっての、最初の「真実の瞬間」という意味です。

2011年には Google が、ZMOT(ジーモット)という名前を付けました。Zero Moment of Truth。お店の棚に行くより前に、ネットで調べ、口コミを読んで、ほぼ決めてしまう瞬間です。棚の前の「最初の瞬間」よりも前にある、という位置から、ゼロと呼ばれます。

今は、その調べる相手が、検索だけでなく、AI への相談にも広がっています。
その変化を、Google は2026年9月、「ハイレゾ消費」と名付けました。ハイレゾは、二つの言葉の頭から取った名前です。
一つは、解像度。英語で High Resolution。音楽や映像で言う「ハイレゾ」と同じ言葉で、ここでは、欲しいものの輪郭が、細かく、はっきりしていくことを指します。もう一つは、共鳴。High Resonance。自分に合う、と感じる気持ちが高まることです。

何が欲しいのか、まだはっきりしない段階から AI に相談し、対話を重ねて、買うものを決める。その対話の中で、本人も意識していなかった判断の軸が生まれ、欲しいものの解像度が上がっていく。そして、AI で視野を広げ、検索で確かめて輪郭を固める、という行き来も描いています。私の Mac の購入でも、ChatGPT と店頭を行き来しました。
もう一つが、日経クロストレンドが2026年4月に示した AICAS(アイカス)です。
もとになっているのは、電通が提唱した AISAS(アイサス)という購買のモデルです。注目、興味、検索、購買、共有。英語の頭文字で、Attention、Interest、Search、Action、Share です。

AISAS は、注目から始まる流れでした。AICAS は、AI への相談から始まり、他の情報源で確認してから購入する流れです。出発点が、注目から、相談に変わりました。Ask は AI への相談、Interest は興味、Confirm は確認、Action は購買、Share は共有です。

AI に勧められたものを、公式のページや口コミで確かめる。この確認の行動は、すでに一つの段階として整理されています。
AICAS を下敷きにした、2026年6月の、1,000人への調査があります。対象は、直近1か月に AI で商品・サービスの情報を集めた人です。その中で、AI で調べたことが実際の購入・利用につながることが「よくある」「たまにある」と答えた人は、合わせて65.8%でした。そして、AI のあとに公式のページや口コミで確かめ直す行動も、はっきり出ています。

どの見方も、AI との相談で判断の軸がはっきりし、確かめる行動が生まれることを捉えています。
私が見たいのは、その先です。確かめた結果、判断の根拠は、本当に確かになったのか。それとも、納得が強まっただけなのか。
確認した結果で条件を更新し、もう一度 AI と考え直す
その先を、流れとして整理したのが、これからお伝えするモデルです。私はこれを、「AI 共考型の購買モデル」、英語では「AI Co-Thinking Purchase Model」として提唱します。
特徴は、二つあります。一つ目は、確認した結果で条件を更新し、もう一度 AI と考え直す、往復を中心に置くことです。この往復を、「更新ループ」と呼びます。二つ目は、納得の強さと、判断の根拠の確かさを、分けて見ることです。

私の購入相談の記録と、先行の研究を踏まえ、これから実務で検証していくモデルです。
流れは、六つの段階です。相談、興味、確認、更新、購買、共有。段階の言葉は、先ほどの AICAS にそろえています。更新のあとは、必要なら、相談に戻ります。

先ほどの Mac の購入に当てはめてみます。
一つ目は、相談です。AI に、用途や条件を話します。
動画の編集をすることや、海外にも持っていきたいことを、ChatGPT に伝えました。
二つ目は、興味です。AI の説明で候補が絞られ、気になるものが決まってきます。この段階では、AI の説明に、納得が生まれやすくなります。
その説明で16インチを強く後押しされ、すっかり納得していました。
三つ目は、確認です。実物や資料、試用で、自分に合うかを確かめます。
ところが、店頭で16インチを手に持つと、本当に重く感じました。
四つ目は、更新です。確認した結果で、条件と根拠と納得を直します。必要なら、一つ目の相談に戻ります。確認から更新、そして相談へ戻る。これが、更新ループです。
そこで、持ち運びの優先順位が上がり、もう一度 ChatGPT に、14インチと16インチで、書き出しの差がどれくらいあるのかを、聞き直しました。
五つ目は、購買です。
最後は、14インチに決めて買いました。
六つ目は、共有です。使った経験を、口コミなどで伝えます。その経験が、次の相談の材料にもなります。
口コミは書いていませんが、今こうして、使った経験をお伝えしています。
何が変わったかを、条件・根拠・納得で見る
このとき、何が変わったのでしょうか。それを見る物差しが、三つあります。条件と、根拠と、納得です。

一つ目の物差しは、条件です。何が必要か。何を優先するか。どこまで妥協できるか。
持ち運びの優先順位が上がりました。条件が新しく生まれたのではなく、順番が変わりました。
二つ目の物差しは、根拠です。判断を支える裏付けが増えたかどうかです。
説明が増えたからといって、判断の裏付けが増えたとは限りません。その説明を支える資料や、実物、実際に試した結果があるかを、分けて考えます。
手に持った重さが、裏付けになりました。
三つ目の物差しは、納得です。買いたい気持ちや、安心感が、どう変わったか。
16インチへの納得が、14インチへの納得に変わりました。そして、その納得は、手に持った重さという裏付けのあとに、固まりました。
往復そのものではなく、何を更新したかまで見る
ここで、先に出ている見方との違いを、はっきりさせておきます。
このモデルは、AICAS の五段階を土台に、確認のあとに何が変わったかを捉える「更新」を明示したものです。
AI に相談し直すこと、行き来すること自体は、先に出ている見方でも描かれています。私は、確認のあとに何が変わったかを、条件・根拠・納得に分けて見て、その変化を、次の相談へ戻す。これを、更新ループとして、はっきり示します。往復そのものではなく、何を更新したかまで見ることが、このモデルの違いです。
私の Mac の購入で言えば、持ち運びの優先順位という条件の変化と、手に持った重さという根拠を持って、ChatGPT へ戻りました。

ハイレゾ消費は、対話を重ねることで、解像度と共鳴が高まる、という見方でした。
このモデルでは、対話で高まったものを、条件と、根拠と、納得に分けて見ます。特に、興味の段階で生まれる納得と、確認の段階で得る根拠を、分けます。
AI は、説明が上手なことがあります。ですから、興味の段階だけで、納得が固まってしまうこともあります。確認のあと、その納得に裏付けが加わったのか、条件が変わったのか。何が更新されたかを見て、次の相談へ戻すのが、このモデルです。

どちらの見方も、AI と相談しながら買う今の姿を、よく捉えています。このモデルは、その上に、何が更新されたかを、条件・根拠・納得に分けて見る、更新ループを足すものです。
売る側が用意したいのは、確認と更新を支える材料
では、AI 共考型の購買モデルで見たとき、売る側は、何を用意すればよいのでしょうか。
商品やサービスを、AI と相談しながら選ぶ人が、すでにいます。よく言われるのは、「AI にどう紹介されるか」です。AI 向けの検索対策は、LLMO(エルエルエムオー)や AEO(エーイーオー)などと呼ばれます。LLMO は、ChatGPT のような大規模言語モデル向けの最適化。AEO は、答えを返す検索向けの最適化です。百項目のチェックリストのような、技術的な手法も、たくさん出回っています。

必要な技術的な整備も大切です。ただ、それだけで、お客様が自分に合うかを判断できるわけではありません。

このモデルで言えば、AI に紹介されるのは、相談と興味のところです。
けれども、私の Mac の購入で選択を動かしたのは、その先の、確認と更新でした。
ですから、売る側が用意したいのは、お客様の確認と更新を支える材料です。

その柱にしたいのが、向かない条件を書くことです。
向かない条件や、ほかを選んだ方がよい場合を書く
まず、更新を支える材料。条件を考え直せる情報です。
向いている用途だけでなく、向かない条件や、ほかを選んだ方がよい場合を書いておきます。機材なら、どの機器につなぐか、どんな場所で使うか。講座なら、どんな人向けで、何を前提にして、何はしないか。
Mac なら、長い時間の重い作業に向くかどうか、持ち運びの負担はどうか、といった情報です。

お客様が AI で作った比較表や疑問を持ってきたら、一から説明し直すのではなく、どこが違うか、何が足りないかを、具体的に確かめます。それが、お客様が相談に戻るときの、材料になります。
なぜ、向かない条件を書くのか。理由は、三つあります。

一つ目に、AI に相談するお客様は、「これが向いているのは、どんな人?」と聞くこともあります。そのとき、向いている用途だけでなく、向かない条件も書いてあれば、自分に合うかを判断する材料になります。自社のページに答えがなければ、口コミなど、ほかの情報をもとに判断される可能性があります。
二つ目に、合わないお客様が買うと、返品や、低い評価が、共有になります。それが、次に AI が勧めるときの材料になることがあります。向かない人に買われないことは、損ではありません。
三つ目に、百項目の技術的な対策は、外注になりがちです。でも、向かない条件は、社長が一番よく知っています。今日、書けます。
私も、自分の講座を検討している方には、AI を使って短い期間で手早く結果を出したい方には向いていない、とはっきりお伝えしています。

なぜ、わざわざお伝えしているのか。ドラッカーは、マーケティングの目的は、セールスを不要にすることだ、と言いました。顧客を理解し、商品やサービスが自然に選ばれる状態を目指す、という考えです。

ですから、私も、本当に合う方に来ていただくことを大切にしています。説明を工夫しても、商品やサービスが、その方に合うとは限らないからです。合わない方に来ていただいても、続きません。
確認を支える材料は、根拠を確かめられる情報
次に、確認を支える材料。根拠を確かめられる情報です。
価格や、追加でかかるもの。仕様、寸法、対応する機器、提供する範囲、いつの情報か。画像の中だけでなく、文章でも書いておきます。AI が読めて、お客様も確かめられる形です。比べた結果を載せるなら、何と比べて、どんな使い方のときの結果なのかも、書いておきます。
試せる機会も、ここに入ります。店頭で持った重さのように、実際に確かめられる場を用意します。
口コミも、件数より中身です。どんな人が、どんな用途で、どれくらい使って、何が合わなかったか。AI が引用した口コミなら正しい、とは限りません。

そして、購買のあとにも、支援を用意します。設定の案内や問い合わせを通じて、期待と実際の違いを確かめられるようにします。その経験が、共有になり、次の相談の材料にもなります。
これらを整えれば AI に紹介される、と言い切ることはできません。でも、今日からできることは、一つに絞れます。
自社のページに、向かない方や、ほかを選んだ方がよい場合が、一か所でも書いてあるか。なければ、まず一つ書いてください。

お客様が AI に聞くつもりで、ページを見返す
AI に紹介される情報だけでなく、お客様が自分に合うかを確かめ直せる材料を。これが、この記事の結論です。
その最初の一つが、向かない条件です。一度、お客様が AI に「これが向いているのは、どんな人?」と聞くつもりで、ご自身のページを見返してみてください。向いている方だけでなく、向かない方のことも書いてあるか。どこにも見つからなければ、そこが、最初に書く所です。
AI に紹介される情報だけでなく、お客様が自分に合うかを確かめ直せる材料を。
小池英樹 株式会社AutoPilotAcademy CEO
