日経BPコンサルティングが2020年3月に発表したリサーチ結果によると、創業200年以上の歴史を持つ日本企業は1,340社。
全世界の200年企業の65%を占めており、世界的な経営学者・ピーター・ドラッカー氏は著書のなかで、こうした老舗企業が創業した17世紀の日本に近代マーケティングの起源があると指摘しています。
もちろん江戸時代の日本にはインターネットもスマートフォンもなければ、自動車、プラスチック製品も発明されていません。
人とモノと情報の流れ、社会・経済を取り巻く状況が今とはまったく異なるので、当時の施策をそのまま真似することはできないものの、200年以上にわたって事業を続ける企業の創業者がモノを売るという行為をどう捉えていたのか、江戸時代の商人たちがビジネスにどんな工夫やアイデアを凝らしていたのか知ることは、現代のマーケティング施策を考えるうえでも決して小さくないヒントになるはずです。
というわけで、今回のテーマは「江戸時代の2人の豪商に学ぶマーケティングの基本」。三越伊勢丹百貨店の前身である越後屋の創業者・三井高利を中心に、3つのエピソードをご紹介します。
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世界で初めて店頭接客による定価販売をスタート
伊勢国松坂(現在の三重県松阪市)に生まれた三井高利は、1673年(延宝元年)、江戸・日本橋の間借り店舗で呉服店・越後屋を開業しました。
開業にあたっては、商人自ら店頭に立って顧客と向き合い、好みや予算にあわせて商品を提案するというビジネススタイルを構築。顧客は複数の商品を見比べながら購入を検討できるようになりました。
ドラッカー氏によれば、これが現在のアパレル店舗や小売店で見られる接客販売、近代マーケティングの起源だとしています。
さらに三井高利が画期的だったのは、商品に正札(値札)をつけ、定価販売を始めた点。
それまでの呉服店は武家の得意先に赴いて1軒1軒交渉し、1反単位の掛け売り(ツケ払い)で反物を販売するという行商スタイルが主流でしたが、この方式では高額の売掛金を回収できないケースも多く、資金の回転の悪さが課題となっていました。
そこで三井高利が始めたのが、「正札現金掛け値なし」をモットーとし、顧客が必要な分だけを切り売りする現金・定価販売。これによって店舗経営を安定化させたうえで、ツケと無駄な反物が残ることに対する顧客の不安を払拭し、越後屋のファン、リピーターを増やしました。
モノを売るという行為のあり方を大きく変えた三井高利の取り組みは、現代におけるマーチャンダイジングの先駆けと言えるでしょう。
日本初のチラシ「引札」&無償サービスで事業を拡大
店頭での接客とツケなしの定価販売によって越後屋の事業を軌道に乗せた三井高利は、1683年の店舗新築移転にあたって日本で初めての販促チラシである「引札」を発行します。
越後屋が「正札現金掛け値なし」の元祖であることを主張する60万枚前後のチラシを、江戸10里四方の約25万世帯に配布し、わずか3ヵ月の間に売上を6割アップさせました。
あわせて雨天の日には、店の前を通りかかる通行人や顧客に向けて、越後屋のロゴ(丸に井桁のマーク)が入った番傘を無料で貸し出すサービスをスタート。
こうした取り組みが功を奏し、創業からわずか10年ほどの間に越後屋の名前は広く知れ渡り、以後、両替店(現在の三井住友銀行)の開設など、急速に事業を拡大させていきます。
ちなみに江戸時代中期における番傘の価格は、200文(4,000円~5,000円)前後。当時の職人の平均年収が今の貨幣価値で250万円前後、商人のそれが400万円前後であることから見ても、決して安い品物ではありません。
そうした高価な品物が戻ってこなくなるリスクを顧みず、無償の貸し出しサービスを始めた三井高利にはやはり、セールスプロモーションの重要性、社会貢献を通じたブランディングの重要性について先見の明があったのだと思います。
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価値にコミットした商品券でギフト需要を創出
1699年に江戸・日本橋で創業した鰹節問屋にんべん(現:にんべん株式会社)の六代目・伊勢屋伊兵衛は、現在で言うところの就業ルールを定めた「見世取締仕法書」の作成に着手して事業の基盤を固めた後、天保年間(1830年~1844年)に「イの切手」という施策に取り掛かりました。
これは、にんべんの店頭で同価格の鰹節と交換できる、今の商品券のようなもの。伊兵衛は素材に正味二匁の銀を使うことで券そのものの価値を担保して江戸全体に広く流通させ、ギフト需要を生み出しました。
また、イの切手の流通に成功したことによって、にんべんでは前金を受け取ったうえで商品の製造にとりかかるという仕組みができ、キャッシュフロー改善にもつながっています。
その後、にんべんは1846年の新板大江戸長者鑑で前頭中位に選ばれるなど、積極的に事業を拡大。幕末期、太平洋戦争後の混乱による経営危機も乗り越えて次々とヒット商品を送り出し、現在では業界トップクラスのブランド力を誇る水産加工品メーカーへと成長を遂げています。
最後に
今回はいつもと少し趣向を変えて、江戸時代の豪商2人にまつわるエピソードをご紹介しました。
それまでのビジネスの既成概念にとらわれることなく、新しい販売・販促の仕組みを形にし、200年以上続く企業の礎を築いた三井高利と六代目・伊勢屋伊兵衛。
最初に触れたとおり、当時と今とでは社会・経済の仕組みがまったく異なるため、2人がやったこと、成し遂げてきたことをそのまま真似することはできませんが、マーケティング、セールスプロモーションの先駆者として学ぶべきところも少なくないと思います。
マーケティング施策の効果が伸び悩み頭を抱えている方、一度原点に立ち返って方向転換を図りたいといった方に、今回ご紹介した内容が少しでも役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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執筆者:AutoPilotAcademy編集部
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監修者:小池英樹
AutoPilotAcademy[オートパイロットアカデミー] CEO 小池英樹 新潟市のマーケター(36歳)。新潟県新潟市生まれ、新潟市育ち、上智大学卒。 2011年にRutuboを設立、カネなし、コネなし、ノウハウなしの状況から独立。ヨドバシカメラで購入したホームページ作成ツール「Bind」を手元に事業開始。 顧客ゼロ・無収入の状態から販売促進を学び、中小企業300社以上のオンライン集客支援に携わる。顧客は日本全国及びに海外で活躍する日系企業に及ぶ。 顧客企業の集客支援も手掛ける傍ら、AutoPilotAcademyでは、培ってきた集客のノウハウを伝えている。 顧客獲得に苦心するスモールビジネスオーナーのためのオンライン集客のバイブルを作ることを目標としている。